マウンド傾斜のピッチングフォームへの影響力

2019年シーズンから新たに4球団のホーム球場のピッチャーマウンドがMLB仕様の硬くて傾斜のあるマウンドに変わったという事で、速球派投手が硬いマウンドで苦労するメカニズムで、速球派投手と本格派投手のピッチングフォームの違いを比べながら、速球派投手が硬いマウンドで苦労しやすい原因を追究してみました!

今回は、前回の記事の続きで、マウンドの傾斜がどうピッチングフォームに影響するのか考えてみたいと思います!

アメリカでは、青年期のピッチャーにはマウンドの傾斜が肩や肘の怪我に繋がるのではないか?という意見が出ており、傾斜のある(25㎝の高さ)マウンドからの投球と平らな所からの投球(0㎝の高さ)でのピッチングメカニズムの違いが調べられた結果、様々な違いが分かりました。

高さのあるマウンドvs高さのないマウンド

要素1つ目

傾斜のあるマウンドからの投球は平らなグランドからの投球に比べて

  • 軸足から踏み込み脚への幅(ストライド)が広い

傾斜がある分、身体が自然と前に倒れる為に、マウンドからの投球では平らなグラウンドでのピッチングに比べてストライドが大きい事が分かりました。そして、ストライドが広くなる分、踏み込み脚の着地するタイミングが平らなマウンドからのピッチングに比べて遅くなります。

この踏み込み脚の着地のタイミングがほんの一瞬遅くなるだけで、踏み込み足着地後のボールのリリースのタイミング・腕から放たれる最大出力のタイミングが明らかに早くなってしまいます。

本来、下半身で作り上げた出力を、踏み込み足への体重移動と胴体の回転によって上肢に伝えてボールを投げている所が、踏み込み足着地後からのボールのリリースと上肢から放たれる最大出力のタイミング が早くなってしまうと、下肢で作られた出力が上肢に完全に伝わりきる前にボールをリリースする事になり、下肢から伝わりきらなかった分の出力を上肢で作って投球してしまう事になります。

結果、平らなグランドからの投球に比べて傾斜のあるマウンドの方が肩と肘への負担が明らかに大きくなっていました。 その為、ストライドが微妙に大きくなり、踏み込み足の着地のタイミングがほんの一瞬遅くなるだけで、上肢への負荷が大きくなり肩や肘の怪我に繋がります。

要素2つ目

傾斜のあるマウンドからの投球は平らなグランドからの投球に比べて

  • 踏み込み足の踏み込む位置が外に開いている(右ピッチャーなら左足の踏み込み足がより1塁側に着地)
  • 最大速度の胴体の回転のタイミングが早くなってしまう

阪神タイガースの藤浪晋太郎投手は入団当初、大きなクロスステップ(踏み込み足がより3塁側に着地)でのピッチングフォームで、怪我のリスクが高い為直すべきだと話題になりました。しかし、逆に着地位置が開きすぎてしまうと、胴体が早く開いてしまう事になります。

胴体が本来のピッチングより先に開いてしまう事によって、ボールのリリースポイントがずれ、シュート回転しやすくなってしまいますし、 身体が開いてしまうという事は胴体の回転力を使いにくくなるため、上肢の力に頼りやすくなってしまい、肩や肘への負荷が大きくなってしまいます。 。

要素3つ目

傾斜のあるマウンドからの投球は平らなグランドからの投球に比べて

  • 踏み込み足の膝が伸展している

ピッチングの球速に関わる要素の一つとして、踏み込み足の伸展速度の速さというのがあります。曲げていた着地していた踏み込み足の膝をグッと伸ばすことによって、軸足から踏み込み足に体重を乗せます。その為、この膝の屈曲から伸展への速度が球速を出す為に必要な要素になってきます。

日本ハム時代の大谷選手のピッチングで、ボールをリリースする瞬間、踏み込み足を手前に引くようにホップしていたのですが、まさにこの要素を使っていたという事ですね。

ジャンプするときにエネルギーを貯める為にいったん少し膝を曲げ身体を落とした後に、勢いよく膝を伸ばして上に飛ぶのと一緒のメカニズムを、球速に関わる踏み込み足の膝の伸展速度を上げる為に、大谷選手はピッチングで使っていたのだと思います。

しかし、傾斜のあるマウンドからの投球では平らなグラウンドからの投球に比べて、着地時点ですでに膝が伸展してしまっている為、膝の速度が落ちてしまうという事です。

前回の記事で、速球派投手は、体重の過程の中で、軸足で粘っている時、身体を落とし低い体制のまま、膝の曲がった踏み込み足に体重を乗せて、そこから膝を伸ばしながらボールをリリースする事で球速を出していると書かせていただきました。

速球派投手が硬いマウンドで苦労するメカニズム

出来るだけ膝を曲げた状態で踏み込み足に体重を乗せたいところ、 高いマウンドでは比べて膝が伸びてしまうため、いつものフォームのままでは球速がだしにくくなるのではないかと思います。

しかし、この2つの研究結果では傾斜のマウンドでも平らなグラウンドからでも球速はあまり変わらないという結果に。

その代わりに、要素1つ目でもお伝えしたように、平らなグランドからの投球に比べて傾斜のあるマウンドの方が肩と肘への負担が明らかに大きくなっていました。この結果から、傾斜のあるマウンドでは下半身で作れなかった分の出力を上肢で作ってしまうのではないかと思います。

アメリカでは 右肘靭帯(UCL)損傷はMLBで年々増えていて、右肘靭帯(UCL)の手術(トミー・ジョン)を受ける年齢が年々早くなっていますし、高校球児でもトミー・ジョン手術を受ける人がたくさんいます。 アメリカの方が上肢の怪我が多いと言われておりますが、日本に比べて高いこの傾斜が、肘の怪我の多さの要因の一つかもしれません。

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要因4つ目

傾斜のあるマウンドからの投球は平らなグランドからの投球に比べて

  • 踏み込み足の足首が底屈している(つま先立ちしているのと同じ足首の動き)

足首の底屈の動きはつま先立ちしているのと同じ足首の動きになります。そのつま先立ちしたような状態の足に体重を乗せようとすると、バランス力を崩しやすくなる、もしくはバランス力を保つためにより筋力が必要になります。

結果、下半身への負荷が大きくなり、疲労蓄積が早くなってしまいます。

松坂投手がMLBでの登板後は、日本での登板では感じなかった、足の脛の前の筋肉(前脛骨筋)に筋肉痛が出来たというニュースを見たことがありますが、高いマウンドではつま先立ちの要素が増えるため、脛の前に筋肉痛が起きたと思われます。

傾斜の影響のまとめ

理想のピッチングフォームでは、出力を下半身で作り、その出力を胴体を通して腕→ボールに伝えてボールをリリースしています。そして、下半身が疲れてくると下半身でパワーを作り出さず、上半身だけで作り出しがちになり結果、大きな負荷が肩や肘にかかってしまい、怪我を引き起こします。

その為、下半身の機能に影響を与えるマウンドの高さの違いはパフォーマンスへの影響力以上に、選手生命に関わる上肢の怪我に繋がるのではないかと思います。

また、日本人の速球派投手は本格派投手に比べて、特に軸足に体重を乗せている時、下肢を曲げ最大限に身体を落として投げています。という事は元々、傾斜を使ったピッチングフォームというよりは平らなマウンドでのピッチングフォームに近いのではないかと思います。その為、速球派投手の方が、高いマウンドを苦手としているかもしれません。

この研究結果は、平らなグランド(高さ0㎝)と高さ25㎝のあるマウンドからの投球で起きたピッチングフォームでの差でした。また、対象とした選手も青年期(小学生高学年~中学生)という事で、そのままプロの選手に当てはめるのには無理があります。

しかし、繊細な感覚で左右されるピッチングでは、小さな傾斜の差・それぞれのマウンドに対する苦手意識・視覚的要素で微量でもピッチングフォームに差がでてもおかしくないのではないでしょうか?そして、その些細な違いでもパフォーマンスや怪我に繋がるのがピッチングではないかと思います。

徐々にMLB仕様のマウンドが導入されてきているということで、二日に渡ってマウンドの硬さと高さがどのようにピッチングフォームに影響するのか考えてみました!以上から、個人的に、これからMLB仕様のマウンドが増えてくる間の数年間は、同じような身体力(身長や体重)の投手で比べた場合、速球派投手より本格派投手の方が大きな怪我なく活躍する選手が多くなるような気がします。

アメリカの準国家資格(メディカルトレーナー)のアスレチックトレーナー(NATA-ATC)として自分の知識・経験と研究結果を下に学生アスリートの保護者の方・顧問/監督・ファンの方に特に野球に関する怪我、トレーニング、身体の仕組みをお伝えしたいと思っております!下の「プロ野球」のボタンワンクリックでランキングに貢献してくれると嬉しいです!

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参照

Fleisig GS( 1 ), Diffendaffer AZ( 1 ), Ivey B( 1 ), Oi T( 2 ). Do Mound Height and Pitching Distance Affect Youth Baseball Pitching Biomechanics? American Journal of Sports Medicine. 46(12):2996-3001.

Nissen CW, Solomito M, Garibay E, Õunpuu S, Westwell M. A Biomechanical Comparison of Pitching From a Mound Versus Flat Ground in Adolescent Baseball Pitchers. Sports Health: A Multidisciplinary Approach. 2013;5(6):530-536.

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